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登記

従来の制度で困っていたのは誰?~債権者は不安定な立場に置かれていた~

2020.11.24

前回では、改正前の法律では特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書が存在していれば、その不動産については、相続登記が完了する前であっても、遺言書の内容が優先され、第三者へ権利の主張が可能であったが、そこには問題点もあったというところまでをご説明しておりました。

前回の記事はこちら:遺言書があれば、相続登記が完了する前であっても第三者に権利の主張ができていた

今回は、その続きとして、具体的に何が問題だったのかをご説明します。

前述した通り、相続登記を行う前であっても、第三者への権利主張ができるという点は、遺言で不動産を遺された相続人にとっては良いことでしたが、仮に相続人の中に債務を抱えている人がいた場合、その債権者にとってこの点が不安材料でもありました。

債権者は、自身が持つ債権を回収する手段として、債務者が所有している権利(不動産の所有権など)を債務者に代わって行使することができるとされています。(このことを、「債権者代位」といい、その権利のことを、法的な用語では「債権者代位権」といいます。)
仮に、相続人が債務を有していた場合、債務者である相続人の法定相続分は債権者代位の対象となり、その相続人の債権者は、相手方(債務者)である相続人の法定相続分について、前述の通り債権者代位権を行使して債権回収をすることができるのですが、ここについて「遺言」が後から発見されると困ったことになる場合がありました。

従来の制度で困っていたのは誰?~債権者は不安定な立場に置かれていた~前回お話した例をもとにすると、相続人である子供2人のうち、長男に多額の借金があったとします。
父親が亡くなった時点で、父親名義だった複数の不動産の所有権は、各相続人(長女・長男)の法定相続分で共有されることになりますので、長男は全ての不動産において、自身の法定相続分の共有持ち分を持つことになります。
この場合、長男の債権者にとっては、債務者である長男に不動産の所有権が発生したということは自身の債権を回収するチャンスでもありますので、長男の法定相続分の共有持ち分について、債権者代位によって、長男名義での登記を行い、長男が相続した不動産の持ち分を自身の債権の担保とすることができます。

ところが、債権者代位で登記を行った後で、前回の通り「不動産のすべてを長女に相続させる」という遺言が出てきてしまった場合、その遺言の内容が優先されることになり、長男の共有持ち分は初めからなかったことになり、債権者が行った長男名義での登記も同様に無かったものになっていました。
このように、遺言の内容を優先するという制度では、債権者にとってはせっかく確保できていた担保を失ってしまうことになりかねず、そこが問題視されていたのです。

次回は、ここを踏まえて、民法改正で権利取得の際の対抗要件がどのように変わったのかをご説明します。

次回の記事はこちら:今回の民法改正で何が変わったのか

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