procedure 2

相続手続き

相続放棄の注意点~メリットとデメリットについて~

2019.05.22

相続が発生したら、相続人は被相続人の一切の権利及び義務を承継します。被相続人の相続財産の中に、現金や預貯金、不動産等だけでなく、借金や保証債務、滞納していた税金等の負債が残されていた場合は、その負債も相続することになります。しかし、資産よりも債務の方が多い人もいますので、民法では相続人に相続を放棄する権利が認められているわけです。今回は相続放棄という言葉の意味と、相続放棄のメリットとデメリットについてご説明しましょう。

1.相続放棄って何?

相続放棄とは、相続人が被相続人の一切の相続財産を自らの意思で放棄することをいいます。相続放棄を行う場合、現金や預貯金等のプラスの財産だけを相続し、債務などのマイナスの財産だけを放棄するということはできません。プラスの財産もマイナスの債務も全てを相続するか、放棄するかを考えなくてはなりません。

相続放棄は相続人が家庭裁判所に申述することによって行われ、受理されて初めて法的な効力が生じます。相続放棄が受理された場合、申述人はその相続に関し、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、被相続人の一切の権利義務を放棄することができます。

通常相続人となるはずの人が亡くなっている場合や相続欠格・廃除により相続権を失っている場合、代襲相続により下の世代に相続権が移りますが、相続放棄をした場合は初めから相続人とならなかったものとみなされるため、申述人の下の世代に代襲相続権が発生することもありません。

このように、相続放棄は家庭裁判所に対して申述しなくてはならないのですが、一般的にはこの手続きを正確に把握されていない方が極めて多いです。「私は相続を放棄したから」という表現をされる方は多数いらっしゃいますが、それは相続人みんなの遺産分割協議において、単に何も相続しなかった場合を含めて「相続を放棄した」と表現されている方が多いのですが、それでは債務からは逃げられませんので、注意してください。

2.相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄のメリットとしては、以下の点が挙げられます。

・被相続人の負債から解放される
相続放棄の最大のメリットは、被相続人の全ての負債から解放されることです。通常、被相続人の負債は各相続人が法定相続分に従って相続することになりますが、相続放棄をした者は被相続人の全ての義務を放棄することができるので、被相続人が有する負債の返済義務を負う必要がありません。

・相続に関するトラブルに関わらなくてよい
申述人は初めから相続人とならなかったものとみなされるので、相続に関するトラブルに巻き込まれる心配がありません。相続人間で揉めごとが起き、遺産分割協議や調停での話し合いに発展したとしても、一切関与する必要がなくなります。

・相続財産を分散せずに済む
相続放棄は被相続人が債務超過である場合以外でも行うことができます。例えば、相続人の中の長男1人が全ての相続分を取得するため、他の相続人は相続放棄をするということも可能です。しかし、その場合には申述人から次の順位の相続人に相続権が移るため注意が必要です。このようなケースでは、相続放棄という手続きを経ずに、単に遺産分割協議で何も相続しないという協議書を作成するのみとするのが一般的でしょう。

一方、相続放棄には以下のようなデメリットも存在します。

・プラスの相続財産も放棄しなければならない
相続放棄は、被相続人の一切の相続財産を放棄することになるので、プラスの相続財産も全て手放す必要があります。被相続人の土地や建物に住んでいた場合や、所有していた物品等に思い入れがあるといった場合でも、全てを放棄しなければなりません。

・相続放棄は撤回することができない
相続放棄は一度家庭裁判所において受理されたら原則撤回することができません。相続放棄を行った後に被相続人にプラスの財産があることが分かった場合でも撤回は認められません。例外的に相続放棄の撤回が認められるのは、相続放棄の申述が詐欺又は脅迫によるものであった場合や、未成年者が法定代理人の同意なしに相続放棄申述をした場合等とされています。

・相続順位が変動する
相続放棄をすると申述人は相続人でなかったとみなされるため、相続順位が変動し次の順位の相続人に相続権が移ります。被相続人の債務の存在を知らない親族に相続権が移り、思わぬ相続トラブルを引き起こしてしまう可能性もあります。相続放棄を考えるときは、次順位の相続人まで含めて全ての法定相続人を調べてから検討するようにしましょう。

3.相続放棄の期間について

相続放棄ができる期間については、民法で「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければならない」と定められています(民法915条)。被相続人の死亡から3ヶ月以内というわけではなく、あくまで相続の開始を知ってから、つまり被相続人の死亡の事実を知ってから3ヶ月以内とされています。

この3ヶ月の期間のことを熟慮期間といい、熟慮期間中に相続放棄の手続きを行わなかった場合は相続を承認したものとみなされてしまいます。しかし、疎遠だった親族が亡くなり、財産の状況が分からないため相続放棄の判断が難しい場合も考えられます。

このような場合は、家庭裁判所に「相続放棄の期間伸長の申立て」を行い、熟慮期間を伸長することが可能です。相続財産の構成が複雑なため調査が困難であるといった場合や、相続人の所在が遠隔にわたるため相続人全員での協議期間を考慮する必要があるといった客観的な理由が必要になります。

ひとまず、一般論として被相続人が死亡してから四十九日くらいまでは法要関係でバタバタしているのが普通でしょう。となると、それから相続に関して考え出したとしても、相続放棄をするかしないかの検討期間は1ヶ月そこそこしかありません。まずは無理に短期間で決断するのではなく、相続放棄の期間伸長の申立てをして、時間的余裕を作りましょう。

4.まとめ

相続放棄の手続きを行う場合は相続放棄のメリットとデメリットをしっかり理解した上で手続きを行う必要があります。また、相続放棄には期間が定められており、一度受理されたら撤回することが難しいため、期間内に被相続人の相続財産を正確に把握し、相続放棄するべきかの判断を速やかに行わなければなりません。

相続放棄するべきかどうかの判断が難しい場合や、被相続人の相続財産調査が困難な場合は、早めに相続の専門家や弁護士に相談した方がよいでしょう。

電話予約

0120-755-681

Web予約

無料相談は
こちら Zoom等で対応可能です