procedure resignation

相続放棄

受理された相続放棄の取消・撤回はできる?

2021.05.15

「多額の相続債務があると思い、家庭裁判所に相続放棄の申述手続を行い受理されました。

しかし、その後、相続債務を上回る多額の相続債権があることが分かったので、いったん受理されたものを取り消したいです。」という質問を受けることがあります。

いったん受理された相続放棄の取消(撤回)はできるのか、お話しさせていただきたいと思います。

1.相続放棄の取消

相続放棄の申述は、いったん家庭裁判所に受理されると、熟慮期間(相続の承認又は放棄をすべき期間をいい、原則として、相続開始を知った時から3か月です。民法915条1項本文。)中であっても取消(撤回)することはできません。これは、民法919条1項で規定されています。

相続の承認や放棄について取消(撤回)を認めると、他の相続人や利害関係人に大きな影響を及ぼし、著しく法的安定性に欠けることになるからです。しかし、以下に列挙するような、民法総則や親族編が規定する取消の場合まで認めないとなると、相続人の保護に欠けることにもなります。

そこで、民法919条2項では、相続の承認及び放棄について、民法総論や親族編が規定する取消を認めることを明文で規定し、民法919条3項では、承認・放棄の早期確定のために、当該取消権の消滅時効を追認可能な時から6カ月、除斥期間を承認・放棄の時から10年間と通常の取消権の場合と比して短く規定しています。

【民法総則の規定により相続の承認及び放棄を取り消すことができる場合】
⑴未成年者が親権者又は後見人の同意を得ずにした承認・放棄
⑵成年被後見人がした承認・放棄
⑶被保佐人が保佐人の同意を得ず、又は、保佐人の同意に代わる許可を得ないでした承認・放棄
⑷詐欺又は強迫による承認・放棄
【親族編の規定により相続の承認及び放棄を取り消すことができる場合】
⑴後見人が被後見人に代わってした承認・放棄
⑵後見人の同意は得たが、後見監督人があるのにその同意を得ないで未成年被後見人がした承認・放棄

2.相続放棄・限定承認の取消の方法

相続の放棄・限定承認の取消は家庭裁判所に申述書を提出する方法で行わなければなりません。
相続の放棄・限定承認の取消は、家庭裁判所が申述受理の審判をすることにより成立します。

3.取消申述受理の効果

相続放棄・限定承認の取消申述受理の審判がなされると、放棄・限定承認ははじめからなかったことになります。
熟慮期間中であれば、改めて放棄・限定承認の手続きができますし、熟慮期間後であっても遅滞なく申述手続きを行えば、放棄・限定承認をすることができます。

しかし、相続放棄・限定承認の取消申述受理の審判がなされても、既になされた相続放棄や限定承認の申述が取り消されるわけではなく、両者は併存することになります。

そこで、相続放棄を前提に既に遺産分割が行われ、他の相続人が不動産について移転登記手続きを行っていたり、現金や宝石などの動産類の分配を受けている場合、相続放棄の取消の申述手続き受理がされても、当然に当該遺産分割が無効になり、登記の是正や動産類の引渡しを請求できるわけではありません。

この場合、遺産の分配を受けた相続人の協力を得て、登記の是正や動産類の引渡しを受けることになります。

相続人の協力が得られない場合は、遺産分割の調停を申し立て、その手続きの中で相続放棄の取消を主張して遺産の分配について話し合うか、相続人全員を相手方として遺産確認の訴えを提起し、前提問題として相続放棄の取消を主張、立証することになります。

4.相続放棄の無効

民法919条2項は、相続承認・放棄の取消について定めているのみで、相続放棄に無効原因が存在する場合については触れていませんが、無効の主張も可能であると解されています。(例えば相続放棄が錯誤により無効であることを主張する、虚偽表示や心裡留保に該当し向こうであると主張する等)
相続放棄の無効の方式については、取消の場合のような規定がないため、家庭裁判所に申述するという方式をとることはできません。

判例は、相続放棄無効の確認訴訟は不適法であるとしており、相続放棄自体の無効確認訴訟を認めてはいません。
したがって、相続承認・放棄の無効主張については、裁判上もしくは裁判外において、相続に基づく法律関係の前提問題として主張することになります。

判例は、相続放棄についての錯誤無効の主張につき⑴相続税の軽減目的により放棄したが、高額になり目的を達せられなかった事例、⑵他の相続人も放棄することを想定して放棄したが、自己が予想していた通りにならなかった事例において、いずれも動機の錯誤にあたり、民法95条の適用はない(無効を主張することはできない。)としています。

ただ、下級審においては、相続放棄の際の動機に錯誤があった場合に、民法95条の適用を認めた裁判例(東京高裁 )や被相続人から多額の債務があると告げられていたため相続放棄をしたが、逆に多額の債権の存在が判明した場合に民法95条の適用を認めた裁判例(高松高裁)もあります。

また、相続放棄と同様の効果を有する共有持分権の放棄が虚偽表示であると主張した場合につき、判例は当該放棄の意思表示が相手方と通じてなされた虚偽のものであるとして民法94条の適用を認めています。(最高裁)

5.おわりに

相続放棄についてお困りごとがあれば、専門家に一度ご相談されることをお勧めいたします。

電話予約

0120-755-681

Web予約

無料相談は
こちら Zoom等で対応可能です