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弁護士コラム

共同相続した不動産を時効取得することはできる?弁護士が解説

2023.11.30

ある物を10年又は20年占有し続けた場合には、それが元々は他人の物であったとしても、一定の要件の下、「取得時効」の制度を利用してその物の所有権を取得することができます。

では、亡き父母から実家の不動産を兄弟とともに共同相続した後、長年占有し続ければ、その不動産を時効によって取得することができるのかというと、必ずしもそうとはいえません。
それは、取得時効の要件の1つである「所有の意思」をもって占有を継続したといえるかどうかが問題となるからです。

今回は、共同相続の場面で取得時効を主張する余地がどの程度あるのか概観します。

1.遺産分割協議等との対比

本来、他の相続人と共同相続した遺産を自分一人の物とするには、他の相続人全員との間で遺産分割協議が成立することが必要となります(遺言がある場合を除く。)。
他の相続人と不仲であったり疎遠であったりして話合いが付かず、遺産分割協議が成立しない場合であっても、調停・審判手続によって分割を求めることが通常のやり方です。

しかし、ある遺産を長年占有し続けていれば、取得時効を主張することも考えられます。
しかも、遺産分割協議・調停・審判では、相続人の1人が特定の遺産を取得しようとすると、多くの場合、代わりに他の遺産の権利を譲るか、一定の金銭(代償金)を支払うことが必要となるのに対し、取得時効が成立すれば、対象財産は占有開始時からその相続人が取得していたこととなり、対価を支払う必要はないため、取得時効の主張ができるのであれば、大いにメリットがあります。

2.取得時効の要件

ここで、取得時効の成立要件を概説します。

取得時効が成立するには、①20年間、②所有の意思をもって、③平穏に、かつ④公然と、他人の物を⑤占有することが必要となります。
占有継続期間が①’10年間であれば、上記に加えて、占有の開始時に⑥善意(≒他人の所有物であることを知らなかったこと)で、⑦無過失(≒他人の所有物であることを知らなかったことについて過失が無かったこと)も要求されます。

(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

3.所有の意思ある占有

(1)上記2の各要件のうち、問題となるのは②所有の意思です。

「占有」とは、物を所持すること、事実上支配することをいい、ポケットに入れた財布や自宅に置いている家電製品は、持ち主がこれらを占有しているといえます。
また、占有の対象は必ずしも自分の所有物でなくとも良いです。
所有者不明の落とし物の財布をポケットに入れていた場合も同様に占有した状態といえますし、賃貸物件の場合は、賃借人は借り物として家屋を占有し、賃貸人は賃借人の占有を通じて自身も家屋を事実上支配して管理下に置いているといえるので、その家屋を占有していることになります(すなわち、占有という事実状態と所有権という法的権利とは無関係なのです。)。

このように、占有には2種類あり、自分の所有物(所有権を有する物)と認識して物を所持している場合と、自分の所有物ではないが自分の管理下に置いて所持している場合とに分かれます。
前者は所有の意思のある占有(自主占有)、後者は所有の意思のない占有(他主占有)です。
所有権を時効によって取得するには、前者の所有の意思ある占有を継続することが必要となります。

山の上の家

(2)もっとも、所有の「意思」とはいっても、その有無は占有者の内心の意思によって定まるのではなく、「占有取得の原因たる事実によって外形的、客観的に定められるべきもの」(最判昭和45年6月18日判時600・83)とされ、他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情があるときは、占有者の内心の意思を問わず、所有の意思は否定されます(最判昭和58年3月24日民集37・2・131。お綱の譲渡し事件最高裁判決)。

例えば、土地・建物を買い受けて居住を開始し、その後固定資産税等の支払も行っていれば、売買を原因としていることからも、通常所有者以外が支払うことはない固定資産税等を支払っているという事情からも、占有者は所有の意思をもって占有をしているものということができます。
他方、賃貸借契約を締結して借り受けた建物に居住し、賃料を支払っている場合は、賃貸借という行為からも、賃料を支払っているという事情からも、所有の意思は否定されます。

4.相続後の占有と所有の意思

共同相続人の一人が長年にわたって遺産である不動産に居住し続けてきたとして、取得時効が成立するには、その居住等による占有が所有の意思のあるものでなければならないです。

しかし、遺言が無い限り、分割される前の遺産は共同相続人全員が共有することとなり、そのうちの一人が当然に遺産である不動産全部の所有権を単独で取得することは無いです。
そうすると、共同相続人の一人は、被相続人の死後、遺産である不動産に居住して占有を開始しても、自己の共有持分に相当する部分を除いては、通常、他の共同相続人らから借りて占有しているに過ぎないことになるから、外形的客観的に見て、その占有は、性質上、所有の意思のない占有といわざるを得ないです ※1。

※1 なお、共同相続人の一人が遺産である不動産全部を占有し続け、他の相続人の権利を否定したような場合には、他の相続人は「相続回復請求」として目的物の引渡しその他相続権侵害の排除を求めることができるところ、自身が単独で相続権を有すると信ずるべき合理的な事由なしに単独で相続人と称しているような者は、当該請求の消滅時効(民法884条)を援用することはできないとされています(最大判昭和53年12月20日民集32・9・1674)。

また、共同相続人の一人が被相続人の生前から遺産である不動産に居住していた場合には、相続人は被相続人から当該不動産を借りていたことになり、相続が発生したからといって占有の性質が当然に変わることはないです(民法185条参照)。
なお、これらの結論は、固定資産税等を支払って来たという一事情のみで覆すことは困難と考えられます。
以上からすると、取得時効が成立するのは、占有者である相続人が相当な根拠をもって以下のように信じたというような例外的な場合に限られることとなるでしょう。

  • 自分以外には相続人はいない。
  • 自分以外の共同相続人全員が相続放棄したか、自分に相続分を譲渡した。
  • 自分が遺産である不動産全部を単独で取得するという内容の遺産分割協議が成立した。
  • 自分が遺産である不動産全部を単独で取得するという内容の遺言が有効に存在していた。

例えば、上記の内容の遺産分割協議書が成立後、単独で取得した相続人が遺産である不動産に居住を開始したが、その協議書の一部は第三者によって偽造されていたことが後から判明したような場合には、当該相続人は、遺産分割協議を根拠として所有の意思をもって占有を始めたものといえますから(民法185条参照)、取得時効成立の余地が生じます。

5.まとめ

これまで述べてきたように、共同相続した不動産を長年占有したとしても、取得時効が成立する場面は非常に限られます。※2

※2 もっとも、賃借権、使用借権等、借りる権利を時効によって取得することはあり得ることでしょう。

したがって、長年当該不動産の占有を継続した共同相続人としては、所有の意思をもって占有したことの具体的根拠を提示することができれば他の相続人に対して取得時効を主張し得るが、それが難しければ、一定の代償金支払等は覚悟して、正攻法として遺産分割協議を求めていくべきこととなるでしょう。

 

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