touki column

相続登記コラム

今回の民法改正で何が変わったのか

2020.11.25

どなたかがお亡くなりになって相続が発生しますと、亡くなった方がお持ちだった不動産の所有権は各相続人の法定相続分で共有されることになります。
そして、相続によって引き継いだ不動産については、相続登記が必要になりますが、この場合の相続人の共有持ち分の登記については、それぞれの相続人が単独で行うことができるとされています。ここで、各相続人の法定相続分で共有されている不動産について、単独で相続登記をしようとしていたところ、特定の相続人に対して不動産を相続させるという遺言書が出てきた場合、その後の取り扱いはどうなるのでしょうか?

遺言書と相続登記

これまでの法律では、被相続人が残した有効な遺言の中で、特定の不動産を特定の相続人に相続させるという指定があった場合、相続登記がされているかどうかにかかわらず、第三者および相続人の間でも遺言の内容が優先されるとされていました。

たとえば、あるご家族の父親が亡くなったとして、相続人がその子ども2人(長女、長男)だったとします。
相続財産の中には、住んでいた自宅を含めて父親名義の不動産が複数ありましたが、父親は生前、「所有する不動産のすべてを長女に相続させる」という遺言書を残していました。
その場合、残された遺言書が有効だと判断された際は、不動産の所有権のすべてが長女に相続されますので、仮に相続登記が完了する前であっても、長女は他の相続人である長男や第三者に対して権利の主張をすることができていたのです。

通常であれば、不動産の権利を主張するときは、登記が無いと第三者に対しての権利主張ができないので、このように相続登記を行う前でも第三者へ権利の主張ができていたというところは、相続財産を受け取る側にとっては良いことのように見えますよね。
どこに問題があったのでしょうか?

旧制度の問題点

相続登記を行う前であっても、第三者への権利主張ができるという点は、遺言で不動産を遺された相続人にとっては良いことでしたが、仮に相続人の中に債務を抱えている人がいた場合、その債権者にとってこの点が不安材料でもありました。

債権者は、自身が持つ債権を回収する手段として、債務者が所有している権利(不動産の所有権など)を債務者に代わって行使することができるとされています。(このことを、「債権者代位」といい、その権利のことを、法的な用語では「債権者代位権」といいます。)
仮に、相続人が債務を有していた場合、債務者である相続人の法定相続分は債権者代位の対象となり、その相続人の債権者は、相手方(債務者)である相続人の法定相続分について、前述の通り債権者代位権を行使して債権回収をすることができるのですが、ここについて「遺言」が後から発見されると困ったことになる場合がありました。

先ほどの例をもとにすると、相続人である子供2人のうち、長男に多額の借金があったとします。
父親が亡くなった時点で、父親名義だった複数の不動産の所有権は、各相続人(長女・長男)の法定相続分で共有されることになりますので、長男は全ての不動産において、自身の法定相続分の共有持ち分を持つことになります。
この場合、長男の債権者にとっては、債務者である長男に不動産の所有権が発生したということは自身の債権を回収するチャンスでもありますので、長男の法定相続分の共有持ち分について、債権者代位によって、長男名義での登記を行い、長男が相続した不動産の持ち分を自身の債権の担保とすることができます。

ところが、債権者代位で登記を行った後で、前回の通り「不動産のすべてを長女に相続させる」という遺言が出てきてしまった場合、その遺言の内容が優先されることになり、長男の共有持ち分は初めからなかったことになり、債権者が行った長男名義での登記も同様に無かったものになっていました。
このように、遺言の内容を優先するという制度では、債権者にとってはせっかく確保できていた担保を失ってしまうことになりかねず、そこが問題視されていたのです。

民法改正のポイント

今回の民法改正では、債権者の立場を安定させる目的から、「相続人が法定相続分を超える権利を相続した場合は、遺産の分割によるものかにかかわらず、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない」という制度に変更になっています。

有効な遺言によって、不動産を相続することになった場合、これまでは遺言書があれば登記完了の前であっても第三者に権利の主張ができていましたが、今回の改正により、遺言で相続した不動産について、それが自身の法定相続分を超えるものだったときは、相続登記を行わないと第三者に対しての権利主張ができなくなったのです。

今回の民法改正で何が変わったのか先ほどの例でご説明をすると、亡くなった父親の遺言書により長女が受け継いだ不動産が法定相続分を超えるものだった場合、これまでと違って登記をしなければ第三者に権利の主張ができません。
ですので、例えば仮に、長男が長女に黙って、長女が相続した不動産のすべてに関して、自身の法定相続分の共有持ち分の登記を先にしてしまった場合、長女は自身の法定相続分を超える部分については第三者に対して権利を主張することができなくなります。

また、長男の債権者が債権者代位によって法定相続分通りの登記を行い、その後、債権者が長男の共有持ち分に対して差し押さえをかけててしまうと、長女はたとえ遺言書ですべての不動産を相続させると定められていたとしても、長男の債権者に対して対抗することはできません。

これまでの制度では、特定の相続人に不動産のすべてを相続させる旨の遺言があれば、まだ登記完了されていなくても権利の主張ができていたので、相続時点から実際の登記まで間が空いてしまっていたケースもありますが、今回の制度変更により、遺言があっても速やかに登記をしなければ、大きな損失に繋がってしまう可能性もでてきます。
遺言により法定相続分を超える不動産を相続することになった場合は、なるべく早い段階で専門家にご相談されることをお勧めします。

※この改正民法は、基本的に法律の施行日より後に発生した相続、つまり施行日より後に被相続人がお亡くなりになったケースでのみ適用されます。施行日より前に被相続人がお亡くなりになられたケースでは、あくまで改正前の民法が適用されることになりますので、ご注意ください。

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