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遺留分

遺留分対策(生前贈与・贈与税・生命保険)

2022.11.24

ご相談内容

今回は、実際のご相談例をもとに、遺留分対策についてご説明いたします。
70代のAさんが、遺言書の作成を希望されご相談に来られました。

【Aさんのご相談内容】
私は持病があるので、万が一に備え、遺言書の作成を考えています。
妻とは結婚して30年になりますが、私の身の回りの世話や看護もよくしてくれて、本当に感謝しています。
財産は全て妻に渡すつもりです。

妻との間に子どもはいませんが、実は私は離婚歴があり、前妻との間に1人息子がいます。
息子とは、私が前妻と離婚してからも交流があり、最近も孫を連れて遊びに来てくれるなど、良好な関係を築いています。
ただ、相続の話はしたことがないので、息子が私の財産を取得したいと思っているかどうかは分かりません…。

インターネットで調べてみたところ、息子には遺留分というものがあると知りました。
遺言を作成するときの注意点を教えてください。

Aさんのように、前妻との間にお子さんがいらっしゃるものの、後妻に全ての財産を渡したいという方、または、複数のお子さんがおられる中で、同居して身の回りの世話をしてくれている1人のお子さんに全ての財産を残したいという方など、特定の方に全ての財産を相続させたいというご相談は非常に多いです。
今回は、そのような場合に気を付けておくべき「遺留分」についてご説明いたします。

遺留分とは

遺留分とはどのようなものでしょうか。
原則として、被相続人は自分の財産を誰にどのくらい渡すか、自由に決めることができます。

しかし、もし完全に自由に決められるとすると、例えば愛人に全てを渡すなど、残された家族の生活保障の観点から妥当でない場合があります。

そこで、民法上、兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限度の取り分が確保されており、この取り分を「遺留分」といいます。
遺留分に関して、平成31年に改正民法が施行されました。

改正前は、遺留分を侵害された人は「遺留分減殺請求権」を行使できる、となっていましたが、改正後は「遺留分侵害額請求権」を行使できるという内容に変更されました。
両者の内容は基本的には同じですが、遺留分減殺請求の場合は、現物返還が原則とされていたのに対して、遺留分侵害額請求は、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することになりました。

つまり、改正前は遺産であった不動産そのものの返還を求めるため、不動産が遺留分権利者と不動産の受遺者とで共有になることがありましたが、改正後は、不動産の価格のうち、遺留分相当額の支払いを請求するようになったため、不動産の共有という場面はなくなりました。

遺留分の金額は、基本的には、相続財産に「2分の1×個人の法定相続分」という遺留分割合を掛けて求められます。
Aさんの場合を見てみましょう。

Aさんの現時点での財産は以下の通りです。

自宅不動産(土地・建物) 6,000万円
預貯金 2,000万円
合計 8,000万円

Aさんの相続人は妻と息子ですので、法定相続分は2分の1ずつです。
したがって、息子の遺留分割合は4分の1(2分の1×法定相続分2分の1)となり、Aさんの現時点での財産を前提に計算すると、息子は、2,000万円(財産8,000万円×遺留分割合4分の1)の遺留分を有します。

妻に生前贈与すれば解決?

Aさんに、息子の遺留分についてお伝えしました。

【Aさんのご提案】
なるほど、遺留分については理解できました。
もし私の死後、息子が妻に2,000万円を請求したら、預貯金は全てなくなってしまいます。
そうしたら、妻は自宅を手放さないといけない状況になりますね。

考えてみたのですが、妻に自宅を生前贈与するという案はどうでしょうか。
自宅が妻のものになれば、私の財産は預貯金2,000万円のみなので、息子の遺留分額は4分の1の500万円ですよね。
もし息子が遺留分を請求しても、500万円なら支払えるかと思います。

このように考えられる方も多くいらっしゃいますが、今度は、Aさんが妻に自宅を生前贈与することが「特別受益」に当たるのではないか、という問題があります。

「特別受益」とは、複数人の相続人がいる中で、特定の相続人が被相続人から特別な利益を受けていた場合の受益分のことをいいます。
遺産分割において、特別受益を受けた人がいる場合には、特別受益分を相続開始時点の相続財産に加え、その上で各相続人の具体的な相続分を算出します。

特別受益を相続財産に加えることを、特別受益の「持ち戻し」といいます。
相続開始後に受けた遺贈や生前贈与のうち、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が特別受益にあたります。

一般に、不動産の贈与は生計の資本としての贈与とされますので、今回、Aさんが妻に自宅不動産を生前贈与することも、特別受益に当たるといえるでしょう。
特別受益にあたる場合でも、遺産分割の場合には、遺言書等で「持ち戻し免除」の意思表示をすることで、特別受益を持ち戻さないこと、つまり、特別受益を相続財産に加えないことも可能です。

また、Aさん夫妻のように、婚姻期間が20年以上の配偶者間で居住用不動産が遺贈・贈与された場合は、民法改正によって、遺言書等に記載がなくても、持ち戻し免除の意思表示が推定されることになりました(民法903条4項)。

しかし、遺産分割と異なり、遺留分の算定については持ち戻し免除の制度がないため、贈与した本人が望んでいたとしても、持ち戻しを免除することはできません。
もっとも、全ての特別受益が遺留分の算定において考慮されるわけではなく、民法改正により、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年前間にしたものに限り、遺留分算定のための財産の価額に算入される、と定められました(民法1044条)。

今回のケースでも、Aさんがこれから妻に自宅不動産を贈与し、Aさんの相続開始が10年以上先であれば、自宅不動産の価格は遺留分算定のための財産の価額に含まれない、つまり、息子の遺留分は預貯金の4分の1のみ、ということになります。

しかし、もしAさんが10年以内に亡くなってしまった場合は、自宅不動産の価格もAさんの財産に加えて遺留分が算定される、つまり、息子の遺留分は不動産価格と預貯金の合計の4分の1になる、という結果になります。

贈与税はどのくらいかかる?

Aさんには、気がかりなことがあるようです。

【Aさんの気がかり】
長生きできることに賭けて、自宅を生前贈与しても良さそうですね。
ちなみに、贈与税はどのくらいかかるのでしょう?けっこう高いと聞くのですが…。

贈与税は、生前贈与があった場合に、財産を貰った人に対してかかる税金です。
暦年贈与(毎年1月1日から12月31日までに行われた贈与)には基礎控除110万円があるため、年間の贈与から110万円を差し引いた金額に、贈与税率を乗じて贈与税を計算します。

通常、3,000万円超の贈与の場合は、贈与税率は55%、控除額は400万円です。
つまり、贈与した金額の半額以上は贈与税を支払わなければならない、ということになります。

ただし、婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で、居住用の不動産やその購入資金を贈与する場合には「贈与税の配偶者控除の特例」を適用することができます。

この特例を用いると、贈与税は「(贈与された不動産の評価額-配偶者控除(最大2,000万円)-暦年贈与の基礎控除額110万円)×贈与税の税率」により算出されます。
Aさんの妻が自宅の贈与を受けた場合、妻が支払う贈与税は、
(6,000万円-2,000万円-110万円)×55%-400万円=1,739万5,000円
となり、特例を用いても贈与税はかなり高額となります。

その他の遺留分対策方法

【Aさんの迷い】
贈与税を支払うのが難しいので、生前贈与は諦めます。
その他に、遺留分対策としてできることはないですか?

遺留分対策として、生命保険がよく活用されています。

これは、生命保険の死亡保険金の受取人を、相続人にするという方法です。
死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の固有財産として扱われるので、その分相続財産、そして遺留分の額を減らすことができるという仕組みです(ただし、遺産の総額に比べて、死亡保険金の金額が著しく大きいなど、相続人間に大きな不均衡が生じる場合には、死亡保険金も特別受益に準じて持戻しの対象となり、遺留分算定の対象となる場合がありますので、注意が必要です。)。
生命保険は、財産のうち、特に預貯金が多い場合によく用いられています。

Aさんが、預貯金のうち1,000万円を生命保険に回したとすると、相続財産は7,000万円、息子の遺留分は1,750万円となります。
やはり、不動産を手放さなければ息子に遺留分侵害額を支払えないという結果になってしまいました。

そこで、Aさんは、息子に正直に話をしてみることにしました。
息子は、突然の相続の話に少々驚いていたものの、妻に自宅を残したいというAさんの思いを理解してくれ、遺留分侵害額請求はしない、と約束してくれました。

【Aさんの思い】
息子には本当に感謝しています。
もちろん私の死後、息子の気が変わって、妻に対して遺留分侵害額請求をしないとも限りませんが、今は息子を信じています。

そして、Aさんは妻に全てを相続させる旨の遺言を作成しました。
遺言書の付言事項には、妻と息子への感謝の言葉と息子に対して、妻が高齢であり自宅を残しておきたいので、どうか妻のために遺留分侵害額請求をしないでほしい、という内容を記載しました。

まとめ

財産を特定の方に残したいとお考えの方は多くいらっしゃいます。
特定の方に財産を全て渡すという内容の遺言を作成した場合、遺留分対策を何もしなければ、ご自身の死後、財産を残された方が他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。

しかし、できる遺留分対策にも限界がありますので、財産を残したい相手がいる場合には、専門家に相談し、個別のケースに応じた遺留分対策を検討することが重要です。
遺留分対策でお悩みの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所にご相談ください。
 

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