souzokuhouki column

相続放棄コラム

相続放棄をすることと矛盾する行為とは?よくある疑問について解説

2023.06.15

1.相続放棄をすることと矛盾する行為

相続放棄は、法的に当初から相続人とならなかったものとみなされることになります。そのため、「相続放棄をすることと矛盾する行為」をすると相続放棄が認められなかったり、仮にその行為を裁判所に報告しないで相続放棄が認められたとしても、後から亡くなった方の債権者から相続放棄は無効であるとして、借金の返済を求められる可能性があります。

2.相続放棄をすることと矛盾する行為についてのよくある質問

この「相続放棄をすることと矛盾する行為」について、よく相談を受ける内容は以下のようなものがあります。

① 亡くなった方の携帯電話の解約や名義変更をして良いのか、また相続人の携帯電話が亡くなった方名義で契約していた場合に名義変更して良いのか
② 亡くなった方と同居していた場合にそのまま住み続けてよいのか、賃貸借契約者の名義変更をして良いのか
③ ②の場合に水道光熱費の名義変更をして良いのか
④ 亡くなった方が1人で賃貸物件に居住していた場合に残置物や賃貸借契約の処理はどうしたらよいのか
⑤ 亡くなった方名義の車はどうしたら良いのか、そのまま使用し続けても良いのか、相続人以外が使用するなら良いのか
⑥ 相続放棄をしたら家の管理をする必要はないということで良いのか

①亡くなった方の携帯電話の解約や名義変更をしてもいいのか

まず、①について、携帯電話は機種代金を割賦契約していることが多くその残債が残っていることが多いですし、携帯電話自体にも価値があるため、たとえ名義だけ亡くなった方にしていただけの名義借りの場合であっても名義変更は避けるべきといえます。
また、解約についても、契約者が死亡して相続人も相続放棄をした場合法律上当然に契約は終了することになりますし、解約という行為自体亡くなった方の契約者たる地位を引き継ぐことを前提とする行為のため、避けることが望ましいといえます。

相続放棄とは? ③ ~相続放棄をすることと矛盾する行為・携帯電話の解約や名義変更~

最善の方法としては、相続放棄が完了すると、相続放棄受理通知書が裁判所から送られてきますので、その写しを携帯電話会社に送付することであります。
たとえ相続放棄が完了することでその支払い義務がなくなるとしても、相続放棄手続き中もそのまま携帯料金が発生し続けることが気になるのであれば、相続放棄手続き中であることをちゃんと伝えたうえで、亡くなったことを伝えるべきといえます。

そして、前述のとおり名義だけ亡くなった方にしていただけの名義借りの場合の時には、引き続き同じ携帯番号を使用し続けたいというお気持ちは重々わかりますが、リスク回避のためには、名義変更をすることなく、新たに自分の名義で新規に携帯電話契約を締結すべきであるといえるでしょう。

② 亡くなった方の名義で契約している賃貸物件に住んでもいいのか

まず、賃貸借契約が亡くなった方名義である以上、契約者が亡くなった後もそこに居住する権利(いわゆる賃借権)があるのは亡くなった方の賃借権を引き継いだ者であり、すなわち亡くなった方を相続した者ということになります。
そうしますと、亡くなった方の相続放棄をした以上、そのまま住み続けることはまさしく「相続放棄をすることと矛盾する行為」にあたり、避けるべきといえます。

そのため、出来るだけ早く転居先を見つけて引っ越すか、或いは、賃貸人に事情を説明して亡くなった方の賃借権を承継する形ではなく、新たに賃貸借契約を締結して住み続けることとなります。

留意点

ここで留意すべき点としては、賃貸人次第では、滞納家賃がある場合にはそれを支払うことを条件とされたり、一度明け渡して原状回復をしたうえで再度新規契約をすることを条件とされることがあります。

その場合の滞納家賃や原状回復費用について、亡くなった方の通帳から自動引き落としかつ残高があれば別ですが、相続放棄をした又は手続き中の相続人が亡くなった方の通帳から引き出して支払うことは相続放棄と矛盾する行為です。
支払う場合には、相続人自身の財産から支払う必要があります。

この相続人自身の財産から支払うことは、亡くなった方の負債を代わりに払うことになります。
一見「相続放棄をすることと矛盾する行為」に当たると思われる方もいますが、亡くなった方の財産は何ら処分しておらず、あくまで支払い義務のないものを自らの財産で支払っただけと評価されます。
よって相続放棄に支障はありませんので、ご安心ください。

相続放棄とは? ④ ~相続放棄をすることと矛盾する行為 亡くなった方の名義で契約している賃貸物件に住む~

また、新規契約にあたり、新たに敷金や礼金、場合によっては仲介手数料までも支払うように求められることもあります。
その点はご留意ください。

なお、仮に賃貸借契約の新規契約を拒否された場合、転居先が見つかるまでの間そのまま住み続けると、賃貸人との間でトラブルが発生する可能性があります。
滞納家賃があったり、賃貸人が気難しい性格であったり、亡くなった方と賃貸人との特別な関係性から賃借していた等といった、賃貸借契約の新規契約が拒否される可能性がある場合には、事前に転居先の目途をある程度立ててから、賃貸人に対して賃貸借契約の新規契約を提案することが望ましいと思われます。

③ 亡くなった方の名義で契約している賃貸物件の水道光熱費の名義変更をして良いのか

亡くなった方名義で契約している賃貸物件に同居していた場合、前回解説したとおり相続放棄をした相続人名義で賃貸借契約を新規契約すれば問題なく住み続けていくことが出来ますが、水道光熱費の契約はどうしたら良いのか等と悩まれる方が多くおられ、よく相談を受ける内容でもあります。

これまで解説した内容を踏まえますと、水道光熱費の契約者たる地位が亡くなった方である以上、水道光熱費の契約者名義について相続放棄をした或いは相続放棄手続き中の相続人名義に変更することは、「相続放棄をすることと矛盾する行為」といえそうです。

もっとも、実務上は水道光熱費の契約に財産上の価値があるとはいえないため、名義変更をしてもそれが「相続放棄をすることと矛盾する行為」として問題になることはないと考えられています。

賃貸借契約との違いでいいますと、賃貸借契約は通常契約時に敷金を入れていることが多く、それを引き継ぐこと自体が財産的価値のあるものをまさしく相続することになりますし、敷金を入れていないとしても、賃借権という権利は強く保護されており、それ自体に財産上の権利があるという評価もできますので、水道光熱費の契約とは全く異なるものといえるでしょう。

亡くなった方の名義で契約している賃貸物件の水道光熱費の契約

そうしますと、相続放棄が完了する前に水道光熱費の契約者名義を相続人に変更しても良いのではないかと思われますが、財産的価値がないとはいえ水道光熱費の契約者たる地位を引き継ぐという側面があることは否定できないため、相続放棄が完了するまでは名義変更を控えておくのがより無難であると思われます。

相続放棄が完了するまでの間、水道光熱料金が未納となることでライフラインが止められる心配もありますし、その間自ら使用することにより発生した水道光熱費用でもありますので、振込用紙等で相続人の自己固有の財産からその費用を支払っておくことが望ましいといえます。
少なくとも相続放棄をした相続人において被相続人が亡くなって以降自ら使用していた水道光熱費用分は相続放棄をしても自らの債務ですので、支払い義務を免れることは出来ません。

④亡くなった方が1人で賃貸物件に居住していた場合に残置物や賃貸借契約の処理はどうしたらよいのか

亡くなった方名義で契約している賃貸物件に同居していた場合と異なり、基本的に相続放棄をする相続人がその物件に居住するということは想定されないかと思われます。

このような場合に問題となる典型例が、孤独死して遺体が放置したまま腐敗して特殊清掃が必要となり多額の費用を請求されたり、そのような場合でなくとも滞納家賃や原状回復費用の請求があったり(亡くなった当時滞納家賃がなくとも亡くなった後も家賃は発生し続けるため滞納家賃が発生し続けることはよく起こります)、賃貸物件にある亡くなった方の遺品を引き取るように求められたり等の様々な対応を求められることになります。

相続放棄をする以上は連帯保証人となっていない限り、亡くなった方の賃貸借契約を巡る一切の債務について支払い義務がないため、相続放棄をするため一切関知しないと賃貸人に伝えることになります。
賃貸人から解約届を提出するように求められるケースがよくありますが、賃貸借契約を解約できるのは亡くなった方から賃貸借契約者たる地位を相続した者だけであり、応じるべきではないといえます。

不動産業者が賃貸人であったり賃貸管理会社が間に入っている場合

不動産業者が賃貸人であったり賃貸管理会社が間に入っている場合には、相続放棄中のため一切関知できないと伝えればそれ以上色々と要求されることは少ないですが、それでもトラブルになるケースはあります。
特に個人の賃貸人から借りていて賃貸管理会社が間に入っていない場合には、何度も電話がきたり相続人の家まで来たり等、トラブルが発生する可能性がより高まります。

そのため、相続放棄を弁護士に依頼するとともに、その弁護士に賃貸人又はその管理会社との間に入ってもらうのが一番安心かと思われます。
なお、管理会社が間に入っており相続放棄と伝えれば話がスムーズに進む場合でも、亡くなった方の遺品については処理を求められ、少なくとも処分して良いという同意書に署名捺印するように求められます。

亡くなった方が1人で賃貸物件に居住していた場合に残置物や賃貸借契約の処理はどうしたらよいのか

相続放棄をすれば一切関係ないためそれも放置すればよいと思われる方もいるかもしれませんが、法律上相続放棄をしても亡くなった方の財産の管理義務を負うとされています。
そのまま放置した場合、賃貸人が新しい入居者を入れるためにその遺品を別の場所に移動させて管理した場合には、その管理費用を請求された場合その費用を支払う必要が出てきます。
また賃貸人にも迷惑を掛けますので、価値がないものは処分し価値があるものは自宅に持ち帰るなどして管理し続ける必要があるでしょう。

実際の過去の事例において、価値がないものしかなく廃棄費用しか掛からない場合に、賃貸人側から廃棄費用を賃貸人において負担して処分するので、少なくともその同意書が欲しいと言われたケースがあります。
確かに賃貸人側からすれば、相続人が全員相続放棄をしているとはいえ、その遺品を勝手に処分する権限はなく後からもし責任追及されるリスクを考えると処分できません。
相続放棄をしており何ら処分権限はないため、賃貸人が処分しても一切異議を述べないという書面を提出して解決したケースもありますので、まずは相続放棄に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

⑤亡くなった方名義の車はどうしたら良いのか、そのまま使用し続けても良いのか、相続人以外が使用するなら良いのか

まず、相続放棄をした相続人は放棄後も亡くなった方の財産を管理する義務が残ることになります。
そうしますと、亡くなった方名義の車を管理し続ける必要があることになります。
ここで注意すべき点は、管理し続けるということは駐車場に置き続ける必要があるにも関わらず、その車を使用することが出来ないということにあります。

すなわち、亡くなった方名義の車をそのまま使用し続けることは、その車を使用することにより利益を享受し続けることになり、まさしく亡くなった方の財産を相続したものにしか出来ない行為であり、「相続放棄をすることと矛盾する行為」とあたることになります。

さらに注意すべき点は、第三者に対しても使用させることが出来ないということであり、仮に第三者が亡くなった方名義の車を使用していることを知りながら黙認していたとなると、その黙認自体が「相続放棄をすることと矛盾する行為」と判断されかねないということにあります。
使用することもできない車を管理するためだけに永遠と駐車場料金を支払い続ける又は駐車スペースを確保し続けないといけないのではないかと強い懸念を持たれるのも当然かと思われます。

この点、亡くなった方の他の財産の取り扱いと同様に車が無価値であれば処分しても問題ないことになります。
この車が無価値かどうかについて、業者の見積もりを取るのが一番無難な方法ではありますが、高級車でない限り、概ね10年落ちの車で10万キロ以上の走行距離があれば無価値と判断しても問題はないのではないかと思われます。

相続放棄とは?⑦ ~亡くなった方名義の車~

また、亡くなった方の車の管理義務を逃れるもう一つの手段として、法律上相続放棄をした者は引き続きその財産の管理義務を負うとされていますが、まだ相続放棄をしていない相続人がいる場合にはその相続人に通知して管理義務を引き継がせることで、その管理義務から逃れることが出来ます。

この管理義務について、相続放棄の対象者のうち最後に相続放棄をした者は管理義務を引き継ぐ相手がいないため、裁判所に対して相続財産管理人という相続財産の管理人の選任を求め、その管理人に引き継ぐまで財産の管理義務を負い続けることになります。

ただ、この相続財産管理人選任申立てには、実費1万円程度に加えて、弁護士費用だけで税込22万円~33万円、それとは別途相続財産管理人の報酬を担保するために、亡くなった方の財産や相続財産管理人の業務内容に応じて約20万~100万円の予納金を申立人において裁判所に納めることを求められます。
かなりハードルが高いため、車の管理義務を逃れるためだけであれば、現実的ではないのが実情ではあります。

⑥相続放棄をしたら家の管理をする必要はないということで良いのか

相続放棄をした相続人は放棄後も亡くなった方の財産を管理する義務が残ることになるため、亡くなった方名義の家も管理し続ける必要があります。

ここで⑤の車を管理し続けることとの違いで注意すべき点は、車は車庫や駐車スペースで管理しておけば第三者に迷惑をかけることは基本的にないということにあります。

すなわち、家は、築年数が経ち老朽化すると、台風などで瓦が飛んで行って人に当たって怪我をさせてしまったり、草刈りや植木の剪定等をしなければ、草木が生い茂ったり病害虫が大量に発生したりして近隣住民に損害を与える可能性が充分にあります。

その場合、たとえ相続放棄をしたとしても、亡くなった方の財産の管理義務は相続人に残ったままですので、その責任を負うことになってしまいます。
このことを知らないこと方も多く、近隣住民からクレームが来ても放置してのちに訴訟となった事例もあります。

また、損害が生じる程の状況でなくとも、近隣住民からすると手入れがされず草木がどんどん生い茂っていく状況をみて、近くに住んでいる相続人にクレームを言ってくるケースも多く、定期的に草刈や植木の剪定をする必要に迫られるケースも多いです。

相続放棄とは?⑦ ~亡くなった方名義の車~

この管理義務を逃れるためには、前回解説したとおり、まだ相続放棄をしていない相続人がいる場合にはその相続人に通知して管理義務を引き継がせることで、その管理義務から逃れることが出来ます。

そして、前回解説した車と異なり、この管理義務の責任が大きく負担も大きいことから、多額の費用を掛けても裁判所に対して相続人財産管理人の選任を申立て、管理人に管理義務を引き継がせることも現実味を帯びてくることになります。

ただ、ここで留意すべき点として、確かに法律上は相続放棄対象者のうち最後の相続人に最終的に管理義務を負わせることができ、その相続人が相続財産管理人選任申立をするかどうか判断するという流れにはなるのですが、この相続放棄対象者の範囲が広いため、実際上最初に放棄をした相続人達が相続財産管理人選任申立に掛かる多額の費用を負担するというケースがよくあります。

例えば、父親が亡くなったときに最初に放棄するのは、母親やその子供達であり、その放棄が終わると次は父親の両親、両親が亡くなっている場合又は両親がその後相続放棄をした場合には、父親の兄弟、兄弟が亡くなっている場合にはその子供達、つまり、父親が亡くなった子供の立場からすると、自分が放棄することで、最終的に叔父や叔母だけでなく従兄弟達にまで相続放棄を行ってもらう必要があるためです。

そのため、亡くなった父親に財産がなく負債しかない場合でも、その子供達が叔父叔母や従兄弟達の相続放棄に関する費用まで負担することも実務上よくあることであり、それに加えて家の管理義務まで負担させて、それを免れさせるために多額の費用を負担させることがその関係性から出来ず、子供達が相続財産管理人選任申立に掛かる多額の費用を負担するという構図が出来上がるためです。

3.最後に

これまで、相続放棄について全8回にわたって解説してきました。
これまで解説しましたとおり、相続放棄は非常に複雑な問題をはらんでおり、安易に判断して行動すると取り返しのつかないことになったり、色々な方に迷惑をかけてしまうこともあります。
相続放棄という場面に直面した際には、自分で判断せずに相続放棄に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。

相続放棄についてお悩みの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

当サイトのコラムの著作権は法人に帰属します。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

弁護士法人菰田総合法律事務所

福岡を拠点とする、相続案件に特化した法律事務所です。
年間680件以上の相続相談実績、全国対応可能。福岡県内だけでなく、県外からのご相談者様も多数いらっしゃいます。
グループ内に司法書士法人、税理士法人もございますので、遺産分割から、相続登記、相続税申告まで、相続に関することは全てご相談いただけます。

 

電話予約

0120-755-681

Web予約

無料相談は
こちら Zoom等で対応可能です