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遺産分割一般

他の相続人によって相続財産が使い込まれた場合の返還請求

2024.05.02

監修 菰田泰隆 代表弁護士

親が亡くなって蓋を開けてみると、親が亡くなる以前に多額の引き出しがあって財産が急激に減っているご相談をよく耳にします。
相続人の内のお一人が親の介護などを行っており、財産管理まで行っていて、その人が親のために必要なお金ではなく私的に流用するために財産を使い込んでしまっているケースが多発しているようです。

1. 相続において不当利得返還請求が問題となる場合

不当利得とは、ある利益を受ける法律上の利益のない者が他人に損害を及ぼすことで受けた利益のことをいいます。
被相続人の遺産は、遺産分割協議前は各共同相続人の共有となり、各相続人が法定相続分に従って共有持分を取得します。また、遺言書がある場合には、各相続人は遺言書の記載に従った割合で共有持分を取得します。
ところが、共同相続人の一人が預貯金を無断で引き出した場合や、不動産を無断で売却して売却代金を使ってしまった場合など、遺産を勝手に使い込んだ場合には、他の相続人は不当利得返還請求によって救済を図ることになります。

2. 不当利得返還請求の要件

不当利得返還請求の要件は以下の通りです。

① 他人の財産又は労務によって利益を受けた
② 他人に損害を及ぼした
③ 利益と損害の間に因果関係がある
④ 利益を受けたことに法律上の原因がない

例えば、共同相続人の一人が自己の持分を超えて建物を占領している場合、当該相続人は建物の使用利益を受けています(①)。他方、他の相続人は建物を使用することができなくなっていれば、損害を受けたと言えます(②)。そして、一人の相続人が建物を単独で占領したことによって他の相続人が建物を使用できなくなっているため、利益と損害との間に因果関係があります(③)。また、建物を占領している相続人が、遺言や遺産分割協議などによってその者の単独所有となったといったも事情なく不当に占領している場合には、利益を受けたことに法律上の原因がないといえます(④)。

通帳

3. 受益者が返還すべき利益の内容

利益を受けた受益者が法律上の原因がないことにつき知らなかった場合には、現在残っている利益(現存利益)の限度で返還すれば足ります。つまり、現金や預貯金を既に浪費して使い切っていた場合には、現存利益がないため返還請求が空振りになることから、注意が必要です。もっとも、生活費や借金返済などに使った場合には、現存利益があるとして返還請求の対象となります。
他方、受益者が法律上の原因がないことにつき知っていた場合には、利得の全部を返還しなければなりません。

4. 時効に注意

不当利得返還請求権は、以下のいずれかの期間が経過した時に消滅します。

  1. ① 権利を行使することができることを知った時から5年
  2. ② 権利を行使することができる時から10年

例えば、遺産が使い込まれていることを知った時が①の場合にあたり、遺産が使い込まれた時が②に場合にあたります。

5. 使い込みを予防することが大切

遺産の使い込みを事前に防ぐためには、被相続人が判断能力を有しているうちに、将来被相続人の判断能力が低下した際にその財産管理を行う任意後見人をあらかじめ選定しておくと良いでしょう。既に被相続人が判断能力を欠いた常況にある場合には、成年後見人を選定することで、遺産の使い込みを防ぐことができます。
また、財産の管理権限を家族に委託する家族信託制度の利用や、被相続人の死後すぐに預貯金口座を凍結しておくことも有効です。

6. まとめ

遺産の使い込みは、使い込まれた証拠を確保しておくことが重要です。しかし、その調査は困難なことが多く、時効や現存利益の問題により返還請求できないおそれもあります。早期解決のために、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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