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遺言書・遺言執行

特別受益の仕組みと計算方法について

2023.02.03

相続が発生して遺産分割を行う際に、相続人の中に被相続人から生前に高額な贈与を受けた人がいる場合、これが遺産分割協議の争点になることがあります。
これを特別受益といいます。今回は、特別受益という言葉の意味や、特別受益が認められる具体的なケースや計算方法についてご説明します。

1.特別受益とは?

相続人の中に、被相続人から生前に高額の贈与を受けた人がいる場合、遺産分割の際にこれを考慮しなければ、贈与を受けた相続人は他の相続人に比べて多額の遺産を取得することになり、不公平な状態になってしまいます。相続人が被相続人から生前に得た贈与については、民法上「相続分の前渡し」としての性質を持ち、受け取った金額については遺産の一部を先に受け取ったものとみなされます。このように、相続人が被相続人から生前に受けた利益のことを「特別受益」といい、被相続人から特別受益を受けた相続人のことを「特別受益者」といいます。

民法では各相続人間の公平を図るため、個々の事情を反映して「特別受益」を考慮した上で、各自の相続分を修正できる可能性を認めており、これを「具体的相続分」といいます。特別受益が認められた場合、被相続人の遺産総額に特別受益を上乗せした上で、その総額を相続財産とみなして法定相続分を計算し、その法定相続分から特別受益額を控除した金額が特別受益者の相続分となる仕組みになっています。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。

『相続人の中に特別受益者がいる場合、被相続人の相続開始時の遺産に、特別受益の金額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分から特別受益額を控除した残額をもってその者の相続分とする』(民法903条1項)

 

2.特別受益の定義

民法において、特別受益として考慮されるのは次のものであると定められています。

(1)遺贈

遺贈とは、被相続人が遺言書によって財産の全部又は一部を譲渡することです。遺贈された財産は全て特別受益の対象となります。

(2)婚姻若しくは養子縁組のための贈与

相続人が結婚した際に、被相続人から持参金や支度金等を贈与されていた場合、又は養子縁組を行う際の資金を贈与されていた場合、一般的には特別受益の対象となります。ただし、贈与額が少額で、被相続人の生前の財産状況や生活状況に照らして、通常の扶養義務の範囲内の支出であるとみなされる場合は、特別受益に該当しないと判断される場合もあります。

(3)生計の資本としてなされた贈与

相続人が、被相続人から自宅や自動車を購入する際の資金を贈与されていた場合、特別受益の対象になるとされています。また、普通教育以上の高等教育を受けるための学費についても特別受益の対象になると考えられる場合があります。しかし、(2)と同様に、被相続人の財産状況や生活状況に照らして、通常の扶養範囲内の支出であると認められる場合は、特別受益に該当しない場合もあります。なお、過去の審判例等によると、昨今の大学への進学率の高まりに伴い、大学の学費までは扶養の範囲と考えられ、大学院やその他の学費等でないと特別受益とは評価されない傾向にあるともいえます。

3.特別受益の持ち戻しの計算方法

実際に相続人の中に特別受益者がいると認められた場合の、「特別受益の持戻し」の計算について具体的な事例をご紹介します。

<事例>

被相続人の遺産は約8,000万円
相続人は妻、長男A、次男Bの計3名
長男Aが、被相続人の生前に約1,000万円の贈与を受けていた場合

まず、被相続人の遺産を8,000万円とした場合、単純に法定相続分通りに遺産分割をしたと仮定して各自の相続分を計算すると、各相続人は以下の通り遺産を取得することになります。

 

法定相続分 金額
2分の1 4,000万円
長男A 4分の1 2,000万円
次男B 4分の1 2,000万円

 

しかし、今回の事例では長男Aが生前に1,000万円の贈与を受けているため、1,000万円を特別受益分とみなし、以下の通り持戻しの計算を行います。
まず、遺産分割の対象となる遺産の総額は、8,000万円に長男Aの特別受益分1,000万円を加えた9,000万円となります。この場合、法定相続分通りに遺産分割をすると、各相続人は以下の通り遺産を取得することになります。

法定相続分 金額
2分の1 4,500万円
長男A 4分の1 2,250万円
次男B 4分の1 2,250万円

次に、特別受益者である長男の相続分から、特別受益分である1,000万円を控除します。

(計算式)
法定相続分2,250万円-特別受益分1,000万円=1,250万円

よって、今回の場合、特別受益を考慮した各相続人の相続分は、以下の通りとなります。

法定相続分 金額
2分の1 4,500万円
長男A 4分の1 2,250万円
次男B 4分の1 2,250万円

4.まとめ

遺産分割協議において、特別受益が争点になることは非常に多くあります。特別受益の判断や持戻し計算の方法は非常に複雑であり、被相続人の生活状況や資産状況等、様々な点を個別に判断して検討する必要があるので、遺産分割協議において特別受益が争点となり遺産分割協議が難航している方は、相続の専門家や弁護士等に相談した方が良いでしょう。
 

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